寄生妄想

オリジナル恋愛小説とウギョル関連のコンテンツ

久しぶりにWEB拍手の御礼画面の内容を変更しました 6/9 追記あり

  サイトも閉鎖になりそれに付随して利用していたものを整理していたら、WEB拍手の御礼画面の内容がウギョル関連のものにずっとなってたのに気が付いて、久しぶりに変更しました。これといった内容ではないですが、最近チャックしていた番組などについて近況報告みたいな感じで書いています。今後はブログの記事にするには情報不足とかの理由で出来ない小ネタを書いてみたいなぁ。と、いう希望はあったりはしますが、気が向くままなこのブログなので。

 まあブログのコメント欄よりも手軽にコメントを送れるというWEB拍手を使ってもらえたら、こんな画面が出ますよという告知でした。

6/9 以前にもWEB拍手の御礼画面の内容を2度ほど更新しましたが、今回は長文になってしまいました。本当はブログ記事にしようかと迷いましたが、まだ時期尚早な感じがしてひとまずはWEB拍手に書きました。

ヤフージオシティーズがもうすぐ終了

 以前の記事でも書きましたが、2019年3月末でYahooのジオシティーズが終了します。更新はずっと止まった状態でしたが、そこには2003年から私のテキストサイトが置いてありました。終了のニュースを聞いた時、そのまま消滅させるか移転するか迷いました。

 サイトを改めて開設するにしても現在の私には気力も体力も根気もない。だけど一生懸命書いたテキスト(小説や詩や短歌等)がそのまま消えてしまうのは惜しい。作品の出来の良し悪しがどうのというのではなく、その作品に費やした時間やその当時の想いを手離すのが今はまだ出来ない。

 そんな迷いがありました。

 そこにきて、ブログとして使っていたはてなダイアリーの終了のニュース。このままネットの世界から距離を置いてもいいかも...。と、一時は考えたものの、今まで書いて来た文章を手離すことが出来ないし、気力体力がないけどまだ好奇心だけは残っていると改めて自覚したので、はてなブログへ引っ越してサイトの一部の小説を移転させることにしました。

 しかしサイトの全ての作品を移動するのではなく、「素敵なのは恋」「鍵」「雨が止むまで」「雨が降る」4作品だけにしました。掌編や詩などはそのまま消滅させることにしました。

 先日やっと小説の移転も終わり、はてなダイアリーで書いたウギョル関連の記事の整理も完了しました。

 そんな作業をしていると、今まで自分がどんな風にネットで過ごしてきたかを思い起こす瞬間が多々ありました。

 私は他の人のサイトへ出向きコメントを残すことが多くありませんでしたが、気になる話題を取り上げられている方や嗜好が似てらっしゃる方へはコメントし、その方達もそれに応答して下さり穏やかな交流もうまれて楽しいものでした。

 しかし15年以上というのは長い時間なのですね。最初そんな風に交流していた方達もサイト閉鎖などが多くなり、私の方でもサイト更新停止が重なり、すっかりご無沙汰になっていました。交流して下さった方々へは感謝するばかりです。良い方ばかりで嫌な事は1つもありませんでした。

 私もいつまでネット放浪できるかわかりませんが、その時は好奇心がなくなった時かな?!

 Twitterでも以前の様に呟くことがなくなり、時々ぽつりぽつりと気になる話題やMVをリツィートするだけの現状ですが、このはてなブログはどうしましょうか?とりあえず今までのテキストの置き場と立ち位置で、どうすれば良いかな?

 2017年5月に終了したウギョルは2年経った現在でも新シーズン開始のニュースが聞こえてこないので、新シーズンはたぶん期待できないかもしれません。「我们相爱吧」のシーズン4も難しいだろうな。「如果愛」はシーズン4まで放送していますが、こちらの方は私がチェックしていないので情報がよくわかりません。シーズン5はするのかな。

 そんな感じでウギョル関連のニュースも新しいものがあがってこなさそうだし、新規の記事は何をテーマに書けばいいのか????

 正直に言えば何もない。

 好奇心がはちきれて呟かずにはいられないというテーマがない。

 ウギョルの回顧シリーズもいいけれど、その時その時でありったけの想いの丈を綴っていたので、自分の中では『燃え尽きた』感がある。

 まあそんなにテーマテーマと探し回らなくても、書きたいことがあったら書けばいいっかな。

 あっ、そうそう最近購入したマグネットの招き猫が可愛いので画像をアップしておきます。冷蔵庫にメモを貼る習慣がないのでマグネットを購入しない私でも、見た途端可愛い~ってなって、ついつい買っちゃったもので。まあ『福を招く』という意味合いでも皆さんにおすそ分け!!

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招き猫のマグネット

 

「雨が止むまで -愛を伝えたい-」 33.陽射し

 彼は今隣の席で私の手をしっかりと握り締めて眠っている。 剃刀で剃った髭あとはいつもと勝手が違うためか所々赤らんでいた。 目の下には青黒いクマが透けて見えて、彼がどれほど疲れているかが痛いくらいにわかる。 だけどその寝顔は安心しきったように穏やかでうっすらと微笑んでいるかのようだ。
 そして私は秋田から東京へ向かう新幹線の車窓から飛ぶように流れる景色を見ていた。 何をわかったと言うのだろうか。何を失ったと言えばいいのだろうか。
 あの夜彼に抱きかかえられて宿に戻った私は精神的な衰弱と冷たい水に浸かっていたせいで、高熱を出しそのまま寝込んでしまった。 たぶん私と言う名の器が迷いという想いで一杯になり私自身が耐え切れなくなったからなんだろう。 一晩中苦しげにうんうんと唸っていたらしい。 熱で朦朧とした中で私を呼ぶ声が聞こえた。 その声は私を微かな光が射す方へと導く目印となり、その声を頼りに重い体を引き摺りながら歩き続けた。 そうしてやっと辿り着き射しこむ光に触れた時、私は目覚めることが出来た。 そして傍らで心配そうに見つめている彼と目が合った。
「やっぱりあの声は亮祐だったんだね。」
 彼はにっこりと微笑んだ。私の左手を覆うように包み込み大きく息を吐き出す。
「おかえり。」
「ただいま。」
と言うと、彼は繋いだ手を自らの額に何度も打ちつける。
「良かった。良かった。……。このまま目が覚まさないかと……。」
「亮祐が私の名前をずっと呼んでいてくれたから、迷わずに帰ってこれたよ。 ありがとう。」
 彼は私をとても優しげな瞳でじっと見つめている。
「亮祐、亮祐を愛している。 私が傍にいれば苦しめることになるかもしれないってわかっているけど、どうしても離れられないぐらいに愛してるの。 あなたと一緒に居たい。一緒に生きていてもいい?」
「そんな事聞くなよ。綾音が傍に居なくちゃどうしようもないのは俺の方だ。 もうどんな事があっても俺の傍を離れるな。 例え綾音がもう一度逃げようとしたってどこまでも追いかけて絶対にこの腕に抱きしめるから、俺の傍を離れるな。」
そう言いながら私を抱き寄せ強く頬を摺り寄せた。
「亮祐の髭、痛い。」
 私を抱いていた腕を放して彼は口元を撫でる。
「ごめん。痛かったろう。」
 私は起き上がろうとしたが腕に力が入らず諤々と震えてしまうのを見取った彼は腰と背中に腕を差し入れる。
「無理しなくていいぞ。何か欲しいのか。取ってきてやるよ。」
「うん、亮祐が欲しい。」
 それを聞いた彼の顔はすぐさま真っ赤になり、
「おい、冗談はよせ。」
と言いごくりと唾を飲み込んだ。
「冗談じゃないわ。私ずっと亮祐に愛されているか不安だった。 いつも心の隅っこで愛されたいと願っていたの。 だから今ここで亮祐に私を愛していると言って。亮祐の心を私にちょうだい。 結婚している夫婦だからとかそんな事じゃなくて、私を愛しているかどうか知りたいのよ。」
「愛してる。あの日出逢った瞬間からずっと、ずっと今まで君を愛してきた。 これからも限りなく綾音、君の事を愛し続ける。」
 私は愛していると言う彼の言葉で胸が詰まる。 こびりつき心と一体化したような暗い想いは頭上から絶え間なく降り注ぐ雨のような彼の言葉で隅々まで洗い流されていく。
 きっと沢山のものを私は失ったのかもしれない。 でも一番大切な人の手を離さずにいられた。それだけで幸せだと心から想える。 これからも色々なものを得て、また失うだろう。だけど彼の手だけは決して離さない。
 規則正しく寝息をたてている彼の寝顔にそっと触れる。すると彼の頬の温かさが私へとじんわり広がっていく。 自然に笑みがこぼれる。ふと私達を濡らし続けた雨はもうすっかりやんだのだと思った。 この先再び雨が私達を濡らすことがあったとしても、雨上がりの虹を探して二人一緒に生きていけばいい。 そう思いながら私は彼の体に寄り添うように目を閉じた。

「雨が止むまで -愛を伝えたい-」 32.ひとすじの光

 湖面を吹き抜ける風が強さを増したようだ。 一歩踏み出すごとに波の力で体が岸へと押し戻される。 私はもう頬をつたい続ける涙の意味さえも考えようとはしなかった。 ただ脳裏に浮かぶのは彼と出逢ってからの私の大事な瞬間。 まるでスライドを見ているかのように次々と駆け抜けていく。 「結婚してもいいわよ。」と告げた時の彼の驚いた顔、映画館で私の肩に寄りかかって熟睡していた無防備な寝顔、 誕生日に100本の真っ赤な薔薇の花束を抱えてきた時の照れくさそうな笑顔、初めて2人だけの夜を迎えたホテルから眺めた街の夜景。 かけがえのない時間だったと思える。 幸せだったと思い知らされる。 胸がそんな想いにとめどもなく震える。
 見上げれば空には月が輝いていた。
「亮祐に出逢えたこと、忘れないよ。」
 踏み締めながら湖の中心へと向かう。 水はすでに腰のラインまで到達していた。 もう少しで楽になれると思った瞬間、私の名前を叫び水飛沫をあげながら追いかけてくる人の気配に私はもしやと思いながら振り返った。
「綾音!綾音!」
「亮祐、来ないで!」
 しかし彼は猛然と追いかけてくる。 私はまるで空気を漕ぐみたいに大きく左右に手を振りながら少しでも遠くへと逃げようとした。 しかし湖の冷たさで感覚のなくなっていた足はもつれ、足元を支えていた大地が突如として消えた。 ドボンという鈍い音を立てて沈む体を立て直そうと必死に足をばたつかせ大地を捉えようとする。 が、もがけばもがくほど唇からはゴボゴボと空気が大きな泡となって逃げていくばかりだ。 私は泳げるのだから溺れるはずはないと落ち着こうとした。 体の力を一旦抜いてから腕を前に出しそして重い水をなんとか掻き分ける。 そうすれば湖面へと上昇出来るはずだ。 2度3度と試してみたがどうしたことか少しも湖面に近付かない。 それどころか湖底へと引きづられていくような気さえする。 水を蹴る足にも枷が掛けられたように思えて底を覗き見ると、薄気味悪く笑っている女の顔があった。 心臓が氷の手で鷲掴みにされたような衝撃が走る。 湖面へ、空気の吸える湖面へと急ぐ。 だがひときわ大きい気泡が肺から搾り出されると視界が急激に暗くなっていく。 すると彼の顔が幻みたいに目の前にゆらゆらと浮かんでは消えた。

「綾音、綾音!」
と私を揺さぶる誰か。空気が喉を通って肺へと送り込まれる。 そして規則正しくリズムで胸を圧迫された瞬間、瞳の中に眩しいほどの光が溢れた。 目覚めた途端飲み込んでいた水を吐き出す。
「良かった。」
「良かったな。」
 私は生きているのだろうか? 未だはっきりと覚醒していない意識は目の前にいる彼と曽根さんがなぜここにいるのかさえわからないほどぼんやりとしている。 ここは湖の中? でも背中に感じるのは固い地面だし、空気を普通に吸っているし、……。 私はまだ生きているの!なぜ。 体の力を振り絞って腹ばいになりながらも湖に戻ろうとする。
「綾音。何をするんだ。」
 彼は後ろから私を抱きかかえると、
「止めろ。止めてくれ。綾音がいなくなったら俺はどうすればいいんだ。お願いだから俺の傍にいてくれよ。……。」
と泣きながら語りかける。
「何もかもが嫌なのよ。離してちょうだい。私をもう楽にしてよ。」
その時右頬を思いっきり叩かれ、何の前触れもなく叩いた相手を見つめる。 なんとその相手はいつもにこやかな曽根さんだった。 旅館での着物姿の曽根さんとは違い、白いシャツに茶色のズボンという服装の彼女は見慣れないせいか別人のように見える。
「何で叩くの。」
「こんた馬鹿なごどしたからに決まってるだべ。」*1
「あなたには関係ないじゃない。」
するともう一度頬をバチンと音が鳴るほど引っ叩かれた。
「ほんたらに死にたいのならさっさとしなせ。 もう2度と止めたりしねがら。でもね、1度拾ってもらえだ命はほんたらに簡単には投げなんねの。 嘘だと思っだらさあ今からやってみなせ。」*2
 聞き慣れない秋田なまりの曽根さんの言葉は私を突き放しているようだったが、彼女の目にはうっすらと涙が滲んでいるように見えた。
「曽根さん、なんて事言うんだ。折角綾音を。」
「ええから旦那さんは黙っでで。湖でもどごさでも行けばいいさ。」*3
と言うと、私を留めていた彼の両腕を解き湖への道を開く。 私は2度も叩かれた頬の痛みに耐え曽根さんを睨みつけ、まるで幼児が這うように湖へと近づいて行った。 そしてもう少しでという所で黒く輝く湖面が目に入る。 ぐっと腕の力をいれて湖に入ろうとした時、湖底で笑っていた女の顔がすーっと写った。 体が瞬く間に恐怖で硬直する。
「いや、いやーぁ。」
 彼は私が絶叫するとすぐさま掬い上げてさっき目覚めた場所へと連れ戻してくれた。
「おめさんは1度そっちゃある命どご捨てたんだす。んだどもそっちゃある命どご今度は旦那さんが拾ったす。 もうそっちゃある命はおめさんの自由にはならねんだべ。……。 生きなせ。拾ってくれた旦那さんのために今度は生きなせ。」*4
「綾音、生きてくれ。俺のために生きててほしんだ。」
 捨てた命、拾われた命。私の命はもう私だけのものじゃないと諭す曽根さんの言葉に私は暖かい涙が零れてくるを抑えられなかった。

 

 

*秋田弁使用に際し、

はなめの隠れ場所さんの秋田弁変換機を利用させて頂きました。ありがとうございます。

*1:「こんな馬鹿なことしたからに決まってるでしょう。」

*2:「そんなに死にたいのならさっさと死になさいよ。 もう2度と止めたりしないから。でもね、1度拾ってもらった命はそんなに簡単には捨てられないの。 嘘だと思うならさあ今からやってみなさい。」

*3:「いいから旦那さんは黙ってて。さあ湖でもどこでも行ってみなさい。」

*4:「あなたは1度その命を捨てたんだ。だけどその命を今度は旦那さんが拾った。 もうその命はあなたの自由にはならないんだよ。……。 生きなさい。拾ってくれた旦那さんのために今度は生きなさい。」

「雨が止むまで -愛を伝えたい-」 31.迷宮

 ハッ、ハッ、ハッと短く息を吐き出し唾を飲み込もうとするが、乾ききった喉はかえってその渇きを増すばかりだ。 余りの息苦しさに耐えかねて立ち止まり思わず膝を突いた。立て続けに咳がこみ上げて胃がよじれる。 私の名前を呼ぶ彼の声はもう聞こえてこない。それは私が巧く逃げおおせたからなのか彼が探すのを諦めたからなのかわからないけれど、 私の耳に聞こえてくるのは物凄い勢いで心臓から送り出されていく血流の音だけだ。 まるで耳に真綿を詰めこんだように他は何も聞こえてこない。 右を見ても左を見ても誰も居ないのを確かめると、気が緩んでこのままこの場に座り込んでしまいたくなる。
「ここに居ちゃまずいよね。」
と、まだ完全には落ち着かない呼吸を宥めるようにしながら歩き出す。 でもどこへいくのかさえ決まっていないのに、面白いことに足は躊躇わずに前へ前へと進む。 そこに道があるからとでもいうのだろうか。
「痛っ。」
 裸足の足裏に突然尖ったものを感じて左足を上げてみると、そこにあったのは切り出されたように鋭角的な小石だった。 薄ぼんやりとしたオレンジ色の街路灯で足裏が切れていないかと調べてみたが、幸いなことに少し赤くなっているだけで怪我はしていないようだ。 「気をつけないと。」と独りごちに呟いてみたものの部屋を飛び出して来た状況を考えると、靴を履いてくる余裕なんであるはずもなかったんだけど。
 舗装されたアスファルトの道路を目を凝らしながら歩いていくうちに、何だかとても馬鹿らしくなってどうでも良くなった。 交互に左右の足を出しひたすら歩み続ける。 少しぐらい足に違和感を感じても立ち止まらず、運動会の行進でもしているみたいに前へ前へと。 ちらりと右手を見るとどこかのホテルの窓の灯りが幾つも見える。 あの灯りは幸せの灯りだと思うと胸が一瞬痛んだ。 だがすぐに目を左に転じると月に照らされ小波をたてている田沢湖が見えた。 遠い湖面がキラキラと黒水晶のように輝いている。 その輝きに目を奪われていたら私はいつの間にか道路から湖の方へはみ出していた。 まるで誘われるように湖へと近づいて行く。
 そうして気がついたらもう踝(くるぶし)に湖の波がかかっていた。
「あれ、いつの間に。……。でも。もういいか。……。」
震え続けた罪の意識も重すぎた良心の呵責も、先の見えない2人の未来も、もうどうでも良かった。 どうにもならないわかりきった答えにも望みは託せるはずもない。 全ては潰(つい)えたのだと私にはわかる。 だからもう足掻くのは止そうと思った。苦しむのも止そうと思った。
 私は深く呼吸を1つする。小刻みに体が震えている。私はぎゅっと両手を固く握り締める。
「もうこれ以上苦しみたくないんでしょう?」
と自分自身に言い聞かせるように問いかける。だが震えは徐々に大きくなっていくばかりで一向に止まる様子はない。 もう一度腕を広げてゆっくりと深呼吸をする。
「亮祐、ごめんね。さようなら。」
 呟くように亮祐の名前を口に出した途端目頭が熱くなる。震えがなお一層酷くなり膝が今にもがちがちとぶつかり合いそうだ。 それでも私は冷たい湖へとおもむろに入っていくしかなかった。

「雨が止むまで -愛を伝えたい-」 30.With Out You

 彼は指で優しく私の涙を拭う。
「泣いてもいいよ。その涙で嫌な出来事は綺麗さっぱり消し去ってしまえばいい。 涙が枯れるまでずっと傍にいるから。俺以外の男のことなんて忘れろ。」
「私だって忘れたいのよ。だけど私の心が忘れてくれないの。 愚かな女だ、罪深い女だって私を責める。本当に馬鹿だったと思うけど、してしまった事は取り返しがつかないのよ。 亮祐、どうしたらいい。どうしたら忘れられるの。」
「綾音。」
「助けて、助けてよ。」
「……。……。俺も綾音と同じ間違いをした。」
 私は思わぬ告白に一瞬呼吸が止まり、彼の顔を見るために身をよじる。 彼は思い詰めたような表情で、瞳はまっすぐに正面を見据えぎらぎらと光っていた。
「亮祐、亮祐、嘘でしょ、嘘でしょ。」
「本当の事だ。」
と言う声はあくまで落ち着いていて、より一層私の心を激しくかき乱す。
「亮祐がそんな事をするはずがないじゃない。私のためにそんな嘘なんてつかなくていい。」
 彼は首を振り、私の目をじっと見つめ返す。
「嘘!嘘!嘘よ!」
 私は急いで彼の腕から逃げ出そうとしたが、彼はますます力強く私を抱きしめる。
「離して。嫌、離して。」
と、私は裾や襟元が乱れるのも構わず力の限りにもがく。 だけど彼の縛めは強まるばかりでどうあがいても解かれはしない。
「ねえ、それが私達2人の答えなのね。」
「違う。そうじゃない。俺も君も過ちを犯した。 だけどお互いに愛し合ってる。だから。」
「いいえ、亮祐は私を罰したかったのよ。 過ちをしてしまった私を責めたかったんだわ。 亮祐が傷ついた分だけ私に仕返しがしたくて。」
「違うんだ、綾音。聞いてくれ。」
「何も違わないわ。でもそうされても仕方ないことを私がしたんだから。」
「止めろ。綾音、君を愛してるんだ。誰よりも愛してるんだ。」
「もう聞きたくない。」
 時間なんて止まればいい。傷つけあうだけしかない私達なら、これから先の未来なんていらない。 私の涙はもう枯れ果てていた。涙を堪えながら何度も「すまない。」という彼の腕がふと緩んだ。 その隙を私は逃さなかった。 裸足のまま部屋を飛び出し廊下を走り玄関を駆け抜ける。 彼が私の名前を呼びながら追いかけてくるのがわかると、捉まらないように右の横道へとそれる。 そして全速力で次々と角を曲がる。まるで迷路のようだ。 走っている私でさえどこに行こうとしているのかわからないのだから。